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螢火の軌跡は恋の行方かな

2022/10/14 スマイルBlog

季節は少し移ろっていますが、おなじみの高野事務所ご利用者Mさんの夏の俳句をご紹介いたします。

螢火の軌跡は恋の行方かな(京都新聞・京都文芸面に掲載)

この俳句を目にした時に、長時間露光で撮影したあの蛍火が描く妖しい軌跡の写真がすぐ目に浮かんできました。陽が落ちて闇夜になり静寂の時間が訪れます。小川のせせらぎだけが聞こえるなかで明滅しながらふわふわと飛び交う蛍火を見入っていますと、まるで無重力空間が目の前にひろがったような錯覚を覚えます。

ホタルは、卵から成虫になるまでに約1年かかり、生涯の大部分は水中で生活し、成虫になってからの寿命は約2週間だそうです。その短い間の恋の営みは、人間の世界のような恋の駆け引きや失恋の辛さに浸る暇もなく、燃える恋ひとすじなのでしょう。平安時代の物語や詩歌でも、蛍はその放つ光の妖しさから、胸中の燃える想いをイメージさせ、恋愛と重ねて使われることが多かったとか。

一方、現代においては、蛍の浮遊する光の動きは「ホタルアルゴリズム」とかいう法則で説明できるらしく、そうなると情緒もなにもなくなってしまいますね。

また、蛍と言えば、必ず思い起こされるのが、野坂昭如の小説「火垂るの墓」です。幼い兄妹が、終戦前後の荒廃した世の中で、皆から見捨てられ餓死していくという惨劇を通して戦争の悲惨さを描いた作品です。二人の幼い命を蛍のように儚く消えて行く様と重ね合わせています。

Mさん、今回もイメージ膨らむ俳句を楽しませていただき、ありがとうございました。

前回までの作品はこちらからご覧になれます。↓

https://www.kyoto-fukushi.org/office/news/9024/