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春めきて鞄に地図と時刻表
芸術一般について言えることですが、例えば俳句をこよなく愛して作品を鑑賞し、上手く表現できているなあと感心することは出来ても、いざ自分で作るとなるとそう易々と作品までたどりつくことは出来ません。音楽や絵画でも同様でしょう。人の心を捉える作品になるまでには、当然ながら、それぞれその道を究めるための継続した努力が求められます。
高野事務所のご利用者Mさんの俳句ですが、このところ毎月のように京都新聞文芸欄の俳壇に掲載されています。作句への豊かなイメージが次々と湧き上がっておられるのでしょうか。しかし、同時に日々自然や実生活の中に題材を求めて、そのエスプリを17音に表現する作業には、それ相応のご苦労もあるのだろうと推察しています。
さて、今回の春の俳句はつぎの2句です。
*春めきて鞄に地図と時刻表
*琵琶の音や惜春の波寄せ返す
1句目は、とてもリズムカルな句で旅への憧憬が伝わってきます。春の陽気さに誘われてまだ見ぬ風景を見てみたいと、人は旅に出たい衝動に駆られます。鞄に地図と時刻表の時代ですから、Mさんのお若い頃の思い出でしょうか。当時はスマホもパソコンもないアナログの時代でしたから、旅に時刻表は必携でした。時刻表で旅の下調べをして、旅行気分をほぼ半分満喫したものです。今の若者の鞄の中は、さしずめスマホにペイペイカードですかね。
2句目は、ゆく春へのエレジーと言ってもいいですかね。湖岸に立って寄せ返す波のしぐさに目をやっていると、妖しくも美しい琵琶の音が聞こえてきたのでしょうか。それは、万物は常に変化して少しの間もとどまらないという「諸行無常」の響きとなってゆく春を見送ってくれたのでしょう。
そのように季節は移ろい、今は、萌えいずる木々の緑が鮮やかに周囲の風景を色染めてくれています。
Mさん、今回も春を彩る俳句をありがとうございました。
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