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天地の安寧祈る蝉しぐれ

2023/09/27 スマイルBlog

 残暑はまだまだ続いていますが、「危険な暑さ」という言葉が定着してきた今年の夏でしたね。国連の事務総長は「地球温暖化(global warming)から地球沸騰化(global boiling)の時代になってきた」と警告を発しました。その酷暑の夏を俳句に詠まれたお馴染み高野事務所のご利用者Mさんの作品が8月、9月と連続で京都新聞文芸欄に掲載されました。ご紹介させていただきます。
 
        *天地の安寧祈る蝉しぐれ
 
        *赤子抱く汗のころがる母の胸
 
 1句目は、今年に入ってから国内外で次々に起こった「山火事」「水害」「地震」などの自然災害や国家間の紛争のために、嘆き悲しみ絶望している多くの無辜の人々に思いを馳せて詠まれたのでしょう。ただただ祈るしかない、その絶望の中にあっても、どうにか明日への希望の光を見つけてほしいと祈るしかない思いが作品の中に込められています。そして蝉しぐれが鎮魂の調べとなって祈りをさらに深いものにしています。
 
 2句目は、春にご紹介した入選作の俳句「みどりごの掴まんとする春の風」の夏バージョンでしょうか。「汗のころがる」という表現が、今年の異様な暑さをそのまま表しています。赤ちゃんは夏風邪で熱が出たのでしょうか。お母さんは汗だくになりながらクリニックに向かっているのかもしれません。それとも児童館の母親教室でママ友たちに会いに行っている途中かも知れません。
 この俳句のイメージから少し乖離するかも知れませんが、連想するのは太宰治が遺した最後の短編小説「桜桃」です。主人公(太宰)は作家としての苦悩を抱えながら、家に帰れば父として夫としての役割を果たさなければと思っています。しかし現実には家のこと、まだ小さい3人の子育てはすべて妻に任せっ切りで放蕩な生活を繰り返しており、冗談を言うのが関の山の主人公です。そのやり取りの一節に妻から放たれた辛辣な言葉が「私の胸の谷間は涙の谷」。授乳しながら他の二人の子どもの面倒をひとりで見ながら、汗も涙も入り混じった母の胸の内はどんな気持ちだったのでしょう。自責の念がある主人公は、妻から返された「涙の谷」の言葉に打ちのめされ、仕事をしてくると言ってまた家を出て行きます。小説「桜桃」はそんな人間の苦悩があからさまに卓越した表現で描かれていて、今でも多くのファンに読み継がれています。
 
 Mさんの俳句からは、いつも思いもよらないイメージが沸き上がってきます。
ありがとうございました。それにしても秋の訪れが待ち遠しいですね。

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